炭化ケイ素(SiC)の超精密加工について
炭化ケイ素(SIC)は、ファインセラミックスの中でも優れた機械特性を持った材料で、近年需要が高まっている材料です。しかし、その優れた機械特性ゆえに、機械加工を行うのが非常に困難です。さらに、超精密加工で用いられるダイヤモンド工具は激しい工具摩耗を起こしてしまうため、SiCの加工をナノレベルで行うには特別な工具が必要になります。
SiCの特性
炭化ケイ素(SIC)は、ファインセラミックスの中でも特に近年需要が高まっている材料です。SiCの特徴としては、以下の通りです。
- 耐熱性に優れ、高温領域での機械的強度に低下が少ない
- 共有結合性が強いため、ファインセラミックスの中でも特に硬い
- 耐摩耗性
- 耐食性
これらの特性を活かして、メカニカルシールやケミカルポンプの軸受、またパワー半導体用ウエハや液晶製造装置用部材等に利用されています。
しかしその優れた機械特性ゆえに、炭化ケイ素(SIC)は機械加工が極めて困難な材料です。
SiCの超精密加工が困難な理由
また、超精密加工では一般的に単結晶ダイヤモンド工具が用いられています。単結晶ダイヤモンド工具が使用される理由は、高硬度であり熱伝導性が高いことに合わせて、その結晶性によって高精度な刃先を形成することができるためです。超硬合金の工具では単結晶ダイヤモンド工具ほどの高精度な刃先を形成することができないため、超精密加工にはダイヤモンド工具が使用されています。
しかし、SiCの超精密加工には単結晶ダイヤモンド工具は最適ではありません。これは、SiCとダイヤモンドの相性が悪いことに原因があります。ダイヤモンドは炭素原子が共有結合してできた結晶ですが、C-C結合と比較してSi-C結合の方が安定するという研究結果が分子動力学シミュレーションより確認されています。そのため、SiCやガラスなどのケイ素化合物を単結晶ダイヤモンド工具で加工すると、ワークに工具の炭素が拡散してしまう反応が発生してしまいます。これにより、ダイヤモンド工具の急激な工具摩耗が発生してしまうため、SiCの超精密加工に単結晶ダイヤモンド工具は向いていません。
近年では単結晶ダイヤモンド工具の弱点を補う、多結晶ダイヤモンド工具やナノ多結晶ダイヤモンド工具なども開発されておりますが、いずれも炭素結合であることに変わりはないため、SiCの加工にはダイヤモンド製ではない工具が必要とされています。
SiCの超精密加工におけるポイント
そこで、SiCの加工にはCBN焼結体を使用したCBN工具が使用されています。CBNは立方晶窒化ホウ素(Cubic boron nitride)の頭文字をとった表記で、ホウ素、窒素からできている人工的に作られたダイヤモンド結晶構造材料です。CBNは合成ダイヤモンドを製造するときと同じような環境で作られ、現存する材料の中ではダイヤモンドに次ぐ2番目の硬さを持つ材料です。
このCBN工具は炭素結合を含まないため、単結晶ダイヤモンド工具で発生した炭素の熱化学反応が生じないため、ケイ素系化合物であっても激しい工具摩耗を起こすことなく加工をすることができます。
しかしこのCBN工具は、刃先の精度があまりよくないのが問題だとされてきていたため、SiCやタングステン、超硬合金の精密加工に使用はされていましたが、ナノレベルの精度が求められる超精密加工には適していませんでした。そこで近年登場したのが、ナノ多結晶CBN工具です。これはナノスケールのCBN粒子によって構成されているため高精度な刃先を形成できるだけでなく、CBNよりも結合性が強固になることでより高硬度となった材質です。このナノ多結晶CBN工具による超精密加工の研究は、現在も多くの研究が行われています。
CBN工具はこのような性質から、SiCやタングステン、超硬合金などの難削材加工に使用されており、近年は超精密加工用の工具材質として様々な研究が行われています。注意点としては、CBNを製作する費用が高額であるため、CBN工具は高額な工具となっている点があげられます。そのため、CBN工具の取り扱いには細心の注意を払う必要があります。
炭化ケイ素(SiC)の加工実績①:ガラスモールド用非球面金型
こちらは、ガラスレンズを成形するために用いられる超精密非球面金型です。
超精密研削加工によって仕上げ加工を行い、PV値は最大で約0.15μm、表面粗さは約5.0 nmRaと、高精度加工とナノレベルの表面粗さを実現いたしました。表面は虹面のない鏡面となり、ガラスモールド用の金型として使用できる加工面を達成しております。
炭化ケイ素(SiC)の加工実績②:工作機械向け テーパガイド
こちらは、SiC製の工作機械向けテーパーガイドの加工実績です。
こちらはSiCセラミックス製のため、加工が非常に困難な材質ではございますが、超精密研削加工機を用いて、このような外径の磨きレス鏡面加工を実現しました。
炭化ケイ素(SiC)の加工実績③:SiC製 サインカーブ加工部品
こちらは、サインカーブ加工によって製作されたSiC製の加工部品です。
SiCは難削材と知られておりますが、当社ではSiC等の難削材の切削加工に関するノウハウを蓄積しているため、このようなサインカーブなどの複雑形状加工にも対応することができます。
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超精密・ナノ加工センター.comを運営する株式会社木村製作所では、SiCセラミックスの他にも、チタンやタングステン、超硬などの難削材加工も得意としており、寸法精度±0.001 mmが求められるベアリングやシャフトなどの機械部品に対する高精密加工に対応しております。
また当社では、超精密加工に特化した「ナノ加工研究所」にて、日本屈指の超精密加工を行っております。超精密レンズ金型・マイクロレンズアレイを中心とした加工実績も多数ございます。
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