光学性能を最大限に引き出すためのガラスの超精密加工とは

ガラスをはじめとする硬脆材料は、その高い透明性や化学的安定性から、カメラや顕微鏡、光通信機器などの高精度レンズや光学部品に広く使用されています。
ガラスはレンズ材料としてプラスチックより優れた光学的特性を持ちますが、「硬くて脆い」という特性を併せ持つため、ナノレベル、ミクロンレベルの超精密加工が求められます。
当社では、超精密研削加工によってサファイアガラスや石英ガラスなどの硬脆材の加工実績が多くございます。そこで本記事では、硬脆材で高い表面粗さを実現する超精密加工についてご紹介します。
ガラスの特徴について
主にレンズの基板材料などに使われるガラスは単結晶シリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)、フッ化カルシウム(CaF2)などの光学結晶を含んでおり、硬くて脆いという材質を持ちます。そのため、光学部品の加工は難しいと言われております。
以下に光学部品に使用されるガラスの種類、特徴を複数紹介いたします。
光学用ホウケイ酸ガラス
光学用ホウケイ酸ガラスは、SiO₂、B₂O₃、Na₂Oなどを主成分とするガラス材です。特徴として、低い熱膨張率による耐熱性と耐衝撃性の高さが挙げられます。ガラスの中では比較的加工性が高いと言われており、加工の自由度が高いガラス材です。しかし、熱加工時には熱膨張による歪みや割れが起こることがあるため加工時の温度管理が重要です。
石英ガラス
石英ガラスは、SiO₂を主成分とする無機材料であり、高純度・高透明性を持つ硬脆材料として、レンズ、ミラー、プリズムなどの光学部品に用いられます。主な特徴として、高い光透過性や高耐熱性・耐薬品性などが挙げられ、加工時の特性として石英ガラスは硬くて脆いため通常の機械加工では工具で削ろうとしても、材料を砕いてしまい、光学部品などの性能の低下につながります。
サファイアガラス
サファイアガラスは、参加アルミニウム(Al₂O₃)を主成分としており、非常に高い光透過性、硬度や耐摩耗性を特徴としております。特に硬度に関して、サファイアガラスのモース硬度は9で、ダイヤモンドに次ぐ硬度を誇る材料になります。
加工の特性は、サファイアガラスは上述した通り非常に高い硬度を持つ材料の為、加工難易度が非常に高い材料といわれております。また、硬い特性を持ちますが靭性は低いため加工時にチッピングなどの欠けが発生しやすいです。
硬脆材料の超精密加工におけるポイント
次に、サファイアガラスや石英ガラスといった硬脆材料において、高い表面粗さを実現するための超精密加工のポイントについてご紹介します。
これらのガラス材料を用いて非球面や自由曲面レンズなどの複雑形状の光学部品を加工するために、超精密切削技術を用いて硬脆材料を金属のように加工する、延性モード加工の研究が複数あります。
延性モード加工とは
延性モード加工とは、クラックやチッピングを起こしやすいガラスなどの硬脆材料に対し、材料を延性変形させながら加工することで、微細な損傷や割れを抑えて高い形状精度、表面粗さを実現する技術です。
ガラスは応力が加わると、脆性によって割れたりすることがあります。そのため、微小な切込み深さ・低い送り速度・適正な工具条件を加工時に管理することで表面に割れや傷を起こさず加工を行うことができます。
以下に延性モード加工のポイントをご紹介します。
臨界切り込み深さの制御
ガラスには、延性から脆性へと転じる臨界切り込み深さが存在します。この値を下回る加工条件(切り込み深さ・速度・荷重)を維持することで、材料を塑性的に変形させながら損傷なく加工を行うことができます。
ダイヤモンド工具の適用
ガラスの超精密加工において割れやクラックを防ぐためには、ナノスケールの鋭利さと高硬度を備えた工具の使用が不可欠であり、一般的にはダイヤモンドバイトが用いられます。これらの工具は、加工中の摩耗や劣化を最小限に抑えるため、厳密な工具管理が求められます。
また、適正な負のすくい角を持つ切削工具を使用することも重要な要素です。臨界切り込み深さを考慮した工具を使用することで、加工状態を脆性モードから延性モードへと移行させることが可能となり、傷や割れがなく高い表面粗さを得ることができます。
>>超精密加工に単結晶ダイヤモンド工具が最適である3つの理由
加工環境の安定化
ガラスなどの硬脆材料の超精密加工では、温度・湿度・振動といった外部環境の影響も受けやすいため、恒温恒湿環境下での加工が重要になります。
また、冷却液を使用する場合には、粘性や温度が延性モードの維持に大きく影響するため、冷却条件の最適化も重要になります。
参考文献
閻 紀旺. ’’硬脆材料の超精密延性モード加工’’. 日本機械学会誌. (参照日 2025-05-21)
柿沼 康弘 塚田 拓大 小川 翔太郎 古藤 捷希. ’’光学ガラスの超精密研削加工’’.慶應義塾大学. (参照日 2025-05-21)
石塚 潤, 長澤 圭祐, 三神 政之, 閻 紀旺. ’’フッ化物ガラスの超精密切削’’. 砥粒加工学会誌. (参照日 2025-05-21)
当社のガラス超精密研削加工事例
以下に当社のガラスを用いた超精密研削加工事例をご紹介します。

石英ガラスレンズアレイ 超精密研削加工
こちらは石英ガラスを使用したレンズアレイの加工事例です。超精密研削加工によって磨きレスで高い加工精度を実現しました。レンズアレイのように極めて高い表面品質が求められる加工においては、三鷹光器製の測定装置「NH3SP」を活用することで、Ra0.0163μm、Rz0.0980μmという優れた表面粗さを実現しています。

サファイアガラス非球面 超精密研削加工
こちらは、サファイアガラスに非球面加工を施した事例です。加工中の位置誤差を最小限に抑え、高い追従性を持つ高精度加工機「ULG-100D」を採用することで、有効範囲内でのPV値(面精度)は0.2803μmと、非常に優れた形状精度を実現しました。
さらに、表面粗さにおいてもRz0.2365μmという高水準の加工精度を達成しています。

サファイアガラスR形状 超精密研削加工
こちらは、サファイアガラスに対してR形状加工を施した実績紹介です。本事例では、2種類の異なる曲率半径(R)の形状加工が行われています。
R2.7部分:外周部において、約8mmの範囲にわたり加工を実施。ULG-100Aを使用することで、面粗さRz0.7955μmという精度を実現しています。
R3.5部分:内周部において、約12mmの範囲で加工を行っており、使用機種はULG-100Dです。こちらは面粗さRz0.2413μmと、非常に高精度な仕上がりとなっています。
ガラスの超精密加工なら超精密・ナノ加工センター.comにお任せ下さい!
いかがでしたでしょうか。今回は硬脆材で高い表面粗さを実現する超精密加工についてご紹介しました。超精密・ナノ加工センター.comを運営する株式会社木村製作所では、硬脆材料でも高水準の加工精度を実現する加工技術と設備を保有しております。
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